近年、多様な働き方が注目される中で、「マイクロ法人と個人事業主の二刀流」という戦略が、独立したビジネスパーソンや起業家たちの間で静かなブームを巻き起こしています。
このアプローチでは、マイクロ法人の設立と個人事業主としての活動を組み合わせることで、税制上のメリットや社会的信用の向上など、数々の利点を享受できると言われています。
しかし、果たしてそこにはどのような仕組みがあり、どんなメリットやデメリットが潜んでいるのでしょうか?この記事では、マイクロ法人と個人事業主の二刀流がもたらす可能性について、その概要から具体的なメリット、注意点までを詳しく掘り下げていきます。
1. マイクロ法人とは何か?
マイクロ法人は、一人の経営者が従業員を雇わずに事業を行う会社です。通常の会社とは異なり、マイクロ法人は小規模な組織であり、規模拡大を目指しているわけではありません。俗称的には「社長ひとりだけで運営する法人」と言われます。
マイクロ法人の設立には、合同会社や株式会社が一般的に選ばれます。合同会社は設立費用が比較的少なく、株式による資金調達ができない会社形態です。一方、株式会社は設立費用が高額ですが、将来的に事業の規模を拡大させたい場合に適しています。
マイクロ法人の設立により、複数の事業や収入源を持っている場合に大幅な節税が可能です。特にマイクロ法人と個人事業主を組み合わせることで、法人と個人事業主の利点を活かすことができます。マイクロ法人は従業員1人のみで運営されるため、事業の運営がシンプルになります。
一部のマイクロ法人は、経営者の家族を従業員として雇用することもあります。また、マイクロ法人の設立が一般的に知られるようになったのは、橘玲さんの「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」という本の影響もあります。
マイクロ法人は、現代の働き方や複数の収入源を持つ人々にとって有益な選択肢です。マイクロ法人の特徴や利点について詳しく解説されています。
2. マイクロ法人と個人事業主の二刀流のメリット
マイクロ法人と個人事業主の二刀流を選ぶと、以下の5つのメリットがあります。
1. 社会保険料を大幅に削減できる
マイクロ法人と個人事業主の二刀流を活用すると、マイクロ法人の役員報酬を最低限に設定することで、個人事業主として支払う必要のある社会保険料を抑えることができます。
また、被扶養者に関しては、国民年金と健康保険料の支払いを免除することができるため、被扶養者が多ければ多いほど、さらに負担を減らすことができます。
2. 所得税と住民税の節税効果がある
マイクロ法人と個人事業主の二刀流を活用すると、個人事業主としての控除に加えて、マイクロ法人としての給与所得控除を受けることができます。
このため、課税所得が減少し、所得税と住民税の負担を軽減することができます。特に、年間売り上げが75~80万円程度の小規模な事業をマイクロ法人として行えば、所得税と住民税の節税効果が高まります。
3. 消費税の免除が可能
マイクロ法人と個人事業主の二刀流を活用すると、売り上げを個人事業主とマイクロ法人に分散することができるため、個人事業主の課税売上高が減少します。
個人事業主の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の納税義務が免除される場合があります。このようにして、課税売上高を制約する条件を満たすことで、消費税の免除を実現できます。
4. 広範な経費の計上が可能
マイクロ法人と個人事業主の二刀流を活用すると、マイクロ法人で賃貸物件を契約し、社宅として利用することができます。
この場合、家賃の50~90%を経費として計上することができます。経費の計上範囲が広がるため、事業の運営にかかる費用を削減することができます。
5. 高い社会的信用を獲得しやすい
マイクロ法人は法人としての信用度が高く、個人事業主よりも社会的な信用を得やすい傾向があります。
このため、ビジネスの取引相手や銀行からの融資においても有利な条件を得ることができます。社会的信用は資金調達にも直結するため、マイクロ法人で事業を行う場合には重要な要素となります。
これらがマイクロ法人と個人事業主の二刀流のメリットです。複数のビジネスを展開している個人事業主は、これらのメリットを活かして二刀流を検討する価値があります。
3. 社会保険料を節約するメリットについて
マイクロ法人の利用によって、社会保険料を節約することができます。以下に具体的なメリットをまとめます。
① 社会保険料の削減
マイクロ法人を設立することで、個人事業主として支払っていた社会保険料を法人の社会保険料に切り替えることができます。
個人事業主としての社会保険料は所得に応じて算定されますので、所得が高ければ保険料も高くなります。
しかし、マイクロ法人を通じて給与を受け取ることで、公的保険は健康保険と厚生年金に切り替えられます。また、役員報酬の額を最低額に設定すれば社会保険料を大幅に減らすことができます。
② 所得税の節税
マイクロ法人を設立することにより、所得税の節税も期待できます。個人事業主としては最大で65万円の給与所得控除を受けることができますが、マイクロ法人としては最低55万円の給与所得控除を受けることが可能です。
両方の控除を受けることで課税所得が少なくなり、所得税を節税することができます。さらに、役員報酬を非課税の給与所得控除の最大金額である年間54万円に設定すれば、所得税と住民税をゼロにすることもできます。
上記のメリットを享受するためには注意点もあります。
- 役員報酬の月額を63,000円以下にすると、社会保険料が最安になりますが、報酬が低すぎると法人の利益が減少し、法人税の負担増加につながることに留意しましょう。バランスを考えながら適切な報酬額を設定することが重要です。
- マイクロ法人と個人事業主の二刀流を行う場合は、明確な区別が必要です。異なる事業であることや会計上の区分が明確であることを確認しましょう。同種の事業や曖昧な区分の事業であると、税務調査時に問題が発生する可能性があります。
マイクロ法人を利用することで節税が可能ですが、マイクロ法人設立後の社会保険料や税金に関する制度改正には注意が必要です。将来的なリスクや変更される可能性があることを考慮しながら、適切な節税手法を導入することが重要です。
4. マイクロ法人設立のデメリット
マイクロ法人を設立することにはメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。
このデメリットを把握することは、後悔のない判断をするために重要です。具体的なマイクロ法人設立のデメリットには以下の2つがあります。
4-1. 設立に費用と手間がかかる
マイクロ法人を設立するためには、設立費用と手続きの手間が必要です。個人事業主として開業する場合、特に費用はかかりませんでしたし、税務署への簡単な書類提出で済んでいたかもしれません。しかし、法人を設立する場合は、設立費用が発生します。
法人の形態によって必要な費用は異なります。合同会社の場合は約10万円、株式会社の場合は約22万円の費用がかかります。特に株式会社を選ぶ場合、登録免許税や定款認証の費用が合同会社よりも高くなるため、負担が大きくなります。
また、設立手続きは書類の準備や申請作業が煩雑であり、非常に手間がかかります。しかしこの作業はプロに代行してもらうことも可能です。事務的な手続きをプロに任せることで、自身は本業に集中することができます。
4-2. 維持に費用と手間がかかる
マイクロ法人を設立した後も、維持に費用や手間がかかります。以下に具体例を挙げます。
- 決算処理に要する手間が増える
- 税理士との顧問契約に費用がかかる
- 事務所やバーチャルオフィスの費用がかかる
- 法人税が発生する(毎年最低7万円ほど、赤字の場合でも)
個人事業主としては、自身で確定申告を行うこともありますが、法人の決算処理は複雑であり、専門知識のない人が行うのは難しいでしょう。多くの場合、税理士に依頼することになるでしょう。
さらに、会社の住所を登記する際には、住所の登記が禁止されている場合もあります。その場合、バーチャルオフィスを契約する必要が生じます。
マイクロ法人を設立することでさまざまな負担が発生します。そのため、デメリットもしっかりと考慮する必要があります。
5. シミュレーションサイトで手取り額の確認方法
シミュレーションサイトを利用すると、マイクロ法人設立後の手取り額を簡単に確認することができます。
手取り額は、所得税や住民税、社会保険料を差し引いた後の実際に手に入る金額を指します。シミュレーションサイトでは、さまざまな要素を入力することで、手取り額を計算することができます。
シミュレーションサイトの利用手順は以下の通りです:
- シミュレーションサイトにアクセスします。
- 手取り額を計算する際の必要な情報を入力します。例えば、年収や経費、社会保険の加入状況などです。
- 必要な情報を入力した後、計算ボタンをクリックします。
- シミュレーションサイトは、入力された情報をもとに手取り額を計算し、結果を表示します。
シミュレーションサイトを利用することで、マイクロ法人設立後の手取り額を事前に把握することができます。この手取り額は、具体的な所得や経費、社会保険料などの要素によって変動するため、自分の状況に合わせて入力情報を調整することが重要です。
また、シミュレーションサイトを利用する際には、複数のサイトを比較することもおすすめです。異なるシミュレーションサイトでは、計算方法や考慮する要素が異なる場合があります。複数のサイトを利用することで、より正確な手取り額の計算が可能となります。
なお、シミュレーション結果はあくまで目安として利用することをおすすめします。実際の手取り額は、税務署や社会保険事務所などの専門機関に相談することで正確に把握することができます。
まとめ
マイクロ法人と個人事業主の二刀流は、複数のビジネスを展開する個人事業主にとって有益な選択肢です。
マイクロ法人を活用することで、社会保険料の節約や所得税の節税効果を享受することができます。また、消費税の免除や広範な経費の計上、高い社会的信用の獲得などのメリットもあります。ただし、マイクロ法人の設立には費用や手間がかかり、維持にも負担が生じます。
シミュレーションサイトを活用することで、手取り額を事前に把握することもできます。マイクロ法人と個人事業主の二刀流を検討する際には、メリットとデメリットを十分に考慮し、自身の状況に合わせた選択をすることが重要です。