近年、副業やフリーランスとして自身のビジネスを立ち上げるケースが増えています。
独立して事業を行うには法人化も選択肢の一つですが、資金面や手続きの煩雑さなどから敬遠されがちです。しかし、マイクロ法人という形態であれば、個人事業者の良さと法人の利点を併せ持つことができます。
今回は、マイクロ法人の概要や設立のメリット・デメリットなどについて解説していきます。
1. マイクロ法人とは何か
マイクロ法人は、従業員が1人だけで事業を行う会社の形態です。
通常の会社とは異なり、オフィスを借りる必要もなく、最低限の環境で事業を営むことができます。マイクロ法人の特徴としては、以下のような点が挙げられます。
1.1 マイクロ法人の特徴
- 従業員が1人だけで事業を行う形態
- オフィスやデスクを持つ必要がない
- 社長が主要な役職を兼務することが多い
- 設立登記などの法的要件に従う必要がある
1.2 マイクロ法人の意義
マイクロ法人の設立には、以下のような意義があります。
- 節税効果が期待できる
- 経営体制がシンプルで運営が容易
- フリーランスや個人事業主に適している
以上がマイクロ法人の基本的な特徴や意義です。次のセクションでは、サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリットについて解説します。
2. サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリット
サラリーマンがマイクロ法人を設立することには、多くのメリットがあります。以下にそのメリットを詳しく紹介します。
メリット①:所得分散ができる
マイクロ法人を設立することで、サラリーマンは所得分散をすることができます。
個人事業を副業として行う場合と比べて、マイクロ法人を設立することで税率が下がり、節税効果を得ることができます。
所得税と法人税の税率は異なるため、年間約500万円程度の所得が見込まれる場合には特に有利です。
メリット②:社会的信用が高まる
マイクロ法人は正式な手続きを経て設立されるため、サラリーマンが個人事業主として活動するよりも社会的な信用が高まります。
この信用は、金融機関からの融資審査が通りやすくなったり、他の企業との取引にも有利に働くことがあります。
また、信用度の高いマイクロ法人であれば、信用情報機関に個人としての信用情報よりも優れた情報が登録されることもあります。
メリット③:経費にできる範囲が広がる
サラリーマンとしては、必要経費を控除することができませんが、マイクロ法人を設立すると事業に関する支出を経費として計上することができます。
役員報酬や文房具、通信費など、経費として計上できるものは多くあります。これにより、税金の負担を軽減することができます。
メリット④:小規模企業共済への加入が可能
マイクロ法人を設立することで、小規模企業共済への加入が可能になります。
小規模企業共済は、従業員数が一定の基準以下の企業に対して提供される社会保険制度です。サラリーマンとして働きながらマイクロ法人を設立する場合、既に個人事業主として小規模企業共済に加入している場合は、マイクロ法人の設立後も引き続き加入することができます。
メリット⑤:赤字になった場合の繰越期間が長い
マイクロ法人を設立すると、赤字になった場合でも翌年以降に繰越することができます。
個人事業主よりもマイクロ法人を設立した方が繰越期間が長いため、経営が苦しい場合でも赤字を取り戻す余裕があります。これにより、事業展開におけるリスクを軽減することができます。
以上が、サラリーマンがマイクロ法人を設立する際のメリットです。ただし、それぞれの状況によってメリットの程度は異なるため、具体的な事例においては専門家に相談することをおすすめします。
3. サラリーマンがマイクロ法人を設立するデメリット
マイクロ法人を設立する際には、サラリーマンにとっていくつかのデメリットがあります。以下に、主なデメリットをまとめます。
デメリット①:会社設立に費用がかかる
マイクロ法人の設立には通常、20万円~30万円の費用がかかります。
一方、個人事業の場合はこのような費用は必要ありませんが、マイクロ法人を設立する場合には経費として負担する必要があります。
デメリット②:会社を解散する際にも費用がかかる
個人事業の場合は廃業の届け出を出すだけで解決することができますが、マイクロ法人の場合は解散にも費用がかかります。
解散手続きには10万円~20万円の費用がかかることがあります。
デメリット③:決算処理に手間と時間がかかる
マイクロ法人でも売上がない場合でも、決算申告を行う必要があります。
会社の決算申告は個人事業の確定申告に比べて専門的で手間がかかる場合があります。また、税理士に依頼すると費用もかかるため、注意が必要です。
デメリット④:赤字でも税金がかかる
個人事業の場合、赤字の場合は税金はかかりませんが、マイクロ法人の場合は赤字でも税金の支払いがあります。
法人住民税の均等割りという税金があり、小規模なマイクロ法人でも年に一度約7万円程度の税金を支払わなければなりません。
デメリット⑤:報酬を支払うと社会保険に加入が必要になる
マイクロ法人を設立して給与や報酬を支払う場合、会社としては社会保険に加入する義務があります。
サラリーマンが副業で会社を設立した場合、既存の勤務先での社会保険に加入していることが多いため、二重加入になります。社会保険料は会社と本人で負担することになります。
以上が、サラリーマンがマイクロ法人を設立する際に考慮すべきデメリットの一部です。マイクロ法人の設立にはメリットもある一方で、デメリットも存在します。自身の状況に合わせて慎重に判断することが重要です。
4. マイクロ法人を設立する際の注意点
マイクロ法人を設立する際には、以下の点に留意する必要があります。
4.1 副業収入のあるサラリーマンには不要の場合もある
副業収入のあるサラリーマンの場合、既に給与収入を得ており、社会保険料も勤務先で納めています。
そのため、マイクロ法人から役員報酬を受け取ることや、低額の役員報酬を設定して社会保険料を抑えることは、サラリーマンにとってあまりメリットがありません。
副業収入のあるサラリーマンの場合は、現在の副業の事業所得・雑所得に課税される所得税率と、マイクロ法人に課される法人税率を比較し、マイクロ法人の設立が必要かどうかを検討しましょう。
4.2 マイクロ法人と個人事業主の業種を別にする
マイクロ法人と個人事業主の両方で事業を行う場合、必ず両者の業種を別々に設定する必要があります。
同じ業種で事業を行うと、税務署から租税回避と判断される可能性があります。また、一方の形態には事業活動の実態がないと判断されるリスクも存在します。
したがって、マイクロ法人の設立時には、個人事業主の業種とは異なる業種を選択するか、必ず確認しましょう。
4.3 法人登記により名前や住所が公開される
マイクロ法人を設立する際には、法務局への登記により、住所や名前が公開されます。
代表者である場合は名前が公開され、法人の所在地が自宅の場合は自宅の住所も公開されるため、注意が必要です。
以上が、マイクロ法人を設立する際の注意点です。手続きを進める際には、これらの点に十分に留意してください。
5. マイクロ法人の設立手続き
マイクロ法人を設立する際には、以下の手続きを行う必要があります。
ステップ1:基本事項の決定
まずは、設立するマイクロ法人の基本事項を決定しましょう。具体的には、以下の項目が必要です。
- 会社の形態(株式会社、合同会社など)
- 商号(会社名)
- 事業目的
- 本店所在地
- 資本金
- 会社設立日
- 会計年度
ステップ2:定款の作成と認証
次に、会社の内部規則である「定款」を作成し、公証役場で認証を受けましょう。定款には、以下の情報が含まれます。
- 会社の形態や商号、事業目的、本店所在地、資本金、会社設立日、会計年度、役員・株主構成など
ステップ3:資本金の払込み
定款の認証が完了したら、定款で定めた資本金の額を払込みます。払込みは、任意の銀行口座に振り込む形で行います。払込みが完了したら、払込証明書を発行してもらいましょう。この払込証明書は、登記の際に必要となります。
ステップ4:登記申請
資本金の払込みが完了したら、法務局に会社設立の登記申請を行います。登記申請には、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 就任承諾書
- 発起人決議書
- 払込証明書
なお、登記には約20万円ほどの法定費用がかかります。
ステップ5:税務署や市町村役場への手続き
最後に、税務署や市町村役場などに必要な手続きを行います。具体的な手続きとしては、以下があります。
- 開業届の提出
- 社会保険の手続き
マイクロ法人の場合、特に「青色申告の承認申請書」の提出期限には注意が必要です。
マイクロ法人の設立手続きは複雑で時間もかかる場合がありますので、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
マイクロ法人はサラリーマンにとってさまざまなメリットがありますが、デメリットもあることを理解しておく必要があります。
設立には一定の費用がかかり、決算手続きや税金の支払いにも注意が必要です。また、個人事業主の副業との業種の違いにも留意しましょう。
マイクロ法人を検討する際は、専門家に相談しながら自身の状況に合わせて慎重に判断することが重要です。